「再考 司法書士の訴訟実務」
加藤新太郎先生、木村達也先生、長谷山尚城先生とパネルディスカッション

 3月18日、シンポジウム「最高裁判決 突きつけられた課題」(主催 日本司法書士会連合会)が行われ、中央大学大学院法務研究科の加藤新太郎先生、弁護士の木村達也先生、弁護士の長谷山尚城先生とともに、パネルディスカッションを行いました。

 こんなに有名な先生方とパネルディスカッションできるなんて夢のようでした。また、発言したいと考えていたことも概ねお話することができ、さらに、議論もしっかりかみ合っていたため、壇上で武者震いするようなパネルディスカッションでした。

この記念すべきパネルディスカッションにかける思いを予め書いたものを掲載しておきます。

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 なぜ「再考 司法書士の訴訟実務」が必要なのか。それは、平成28年6月27日に言い渡された所謂和歌山訴訟の最高裁判決に端を発する。
この最高裁判決は、司法書士法3条1項7号に定める裁判外の和解の代理業務の範囲について、債権者が主張している債権額を基準に考えるべきだと判示したものであり、「債権者主張額説に確定した」という捉え方が一般的であると思われる。

 しかし、双方が上告受理申し立てをしていた部分は広範に及んでいた。最高裁が「裁判外の和解の代理業務の範囲」のみを審理の対象としたことから、その余の部分は、審理の対象とされなかった時点で原審の大阪高裁判決が確定していることに注意しなければならない。
 そこで、高裁判決を読んでみると極めて興味深い判断がなされている。特に司法書士の裁判書類作成関係業務(いわゆる本人訴訟支援)とはどのようなものかを明確に定義づけ、その業務の進め方について法律専門職としての善管注意義務を、「司法書士としての説明・助言」、「処理方針」、「引き直し計算の選択」、「過払金の回収額」、「報酬の考え方」等について具体的に説明している。

 判決の中で、当事者となった司法書士が行った裁判書類作成業務(当該業務は弁護士法72条違反と判断されているので「裁判書類作成業務」と言うのは間違っているかもしれないが)について時系列で事実認定している行がある。まずそれを読むと、過払事件の裁判書類作成業務であれば、まあ、このような方法で行っている司法書士が多いだろうな、という印象を抱く方が多いと思われる(判断としては弁護士法72条違反とされているのだが)。

17409662_1237348443007793_955246239_n ところが、その後に出てくる善管注意義務についての判断を検討してからもう一度上記業務の事実経過を読むと、当該司法書士の行った業務がいかに善管注意義務を満たしていないかが浮き彫りになるのである。

 大阪高裁判決は、司法書士を法律専門職と位置づけて高度な善管注意義務を求めている。逆に言えば、それだけ司法書士の職責を重く見ているのであり、そういう意味では、司法書士業界では有名な昭和54年の高松高裁判決より大きく前進しているのではなかろうか。
 このような視点を持って大阪高裁判決を読むと、実に興味深いのである。

 ところで、平成14年の司法書士改正により平成15年7月に認定司法書士が誕生して依頼、訴訟代理人や裁判外和解の代理人を引き受ける認定司法書士が増加し、裁判所における事件数も著しく増加した。しかし、近年はその事件数が大きく減少している。
このことは、認定司法書士が受任していた事件の多くが債務整理事件であり、原告代理人として取り扱った事件のほとんどが過払金返還請求事件であったことを示している。

 過払金返還請求事件は金銭貸借の経過等の事実関係には争いがなく、せいぜいいくつかの法的解釈について最高裁判例等を検討すれば対応できる事件である。ここ十数年は、そうした過払事件を中心に簡裁訴訟代理等関係業務や裁判書類作成関係業務が多く行われてきたが、司法書士が長い歴史の中で培ってきた訴訟業務の知識の集積に対して、この間に次のような3つの大きな弊害が生じてしまったと言わざるを得ない。
まず第一の弊害は、事実認定能力の衰退である。中央大学法科大学院の加藤新太郎先生は、民事訴訟は、争う対象の類型から、①規範の争い、②評価の争い、③事実の争い(推測の争い、思い込みの争い、嘘つきの争い)に分けられ、規範の争いや解釈の争いもみられるが、ほとんどのケースが、事実の争いか、これを含むものであると説明されている(『民事事実認定論』2頁)。

 ところが、定型的で事実関係に争いがない過払金返還請求事件では、間接事実や事情を丁寧に拾い上げ、経験則を通じて事実を把握するという本来の事実認定作業が行われないため、いかにたくさんの過払金返還請求事件を扱っても事実認定能力が向上することはないと考えられるのである。

 次に、第二の弊害は、定型的で事実関係に争いがない事件であるが故に、事実関係を依頼人から丁寧に聴取し、依頼人の生の紛争を法的に整序し、次回期日の準備書面作成のために協議をするといった本来の訴訟遂行業務のステップをおろそかにする傾向が見受けられるということである。

 そのため、過払金返還請求事件ばかり取り扱っていたために、事実関係に争いのある事件の対処の仕方が一向に進歩していない、あるいは衰退しているのではないかと思われるのである。

 そして、第三の弊害として、第一、第二の弊害の結果、簡裁代理業務や裁判外和解代理業務における本人に対する報告が疎かになったり、裁判書類作成業務における本来業務から逸脱し、本人を差し置いて司法書士が実質的に訴訟遂行しているような事態があるのかもしれないということである。

 これらの弊害を打ち破り、司法書士を法律専門職と位置づけて高度な善管注意義務を求めている大阪高裁判決の期待に応えるためには、今こそ、訴訟業務のあり方について具体的に再構築する必要があると考えるのである。