2016年6月27日の日記より

 新幹線のガード下から自転車を引きながら見上げると、街路灯の光を吸収して光る雨粒の群れが降り注いでいた。暗闇で見た印象よりも、雨は激しく降っている。最近は、天気予報がよく当たる。

 朝、11時11分発のひかりで東京に向かう時は晴れていた。もう梅雨が明けたような暑さだった。東京で1時に待ち合わせ場所に集合し、出発までの時間、今日の最高裁判決の予想を安易に口にする者はいなかった。雰囲気としては、皆、6割方は勝訴を信じていた。しかし、3割ほどは敗訴もあり得ると考えていた。でも、それも安易に口にする者はいなかった。残り1割は、何かしらの新しい判断がなされるのではないかという気味の悪さを感じていた。
 最高裁に向かうためにタクシーに乗り込む直前、「双方の上告棄却ということもあり得るかもね」ということを一人がポツリと言った。しかし、皆、聞こえていないふりをしていた。

gf1420124928 最高裁に着くと、既に抽選に備えて傍聴希望者が並んでいた。夏の太陽を避け、並びながらもなるべく木影に入ろうとするため、列は蛇行していた。しかし、傍聴希望者が傍聴席より少ないと見込んだのか、抽選なしで全員が傍聴できることになり、そのまま列を崩さずに最高裁の建物の中に入った。

 ロッカーに荷物を預け、待合室で20分ほど待っていると、係員が法廷に誘導した。法廷はまさに威厳そのものだった。ここで、さまざまな事件が判断され、歴史がつくられ、人々の人生が左右されてきた。後にも先にも二度と来ることはないかもしれない。しっかり目に焼き付けておこうと思った。係員の説明のあと、裁判官が法壇の奥から入廷した。報道のため、裁判官は正面を向いたまま身じろぎもせず、法廷は静まりかえった。

 テレビカメラが法廷から出ると、裁判官は開廷を宣言し、主文を読み上げた。

「本件各上告を棄却する」

 法廷は静まりかえったままだが、傍聴人の心の内は様々な思いが錯綜していたに違いない。

 その後、裁判官が、理由の要旨を解説し、それが終わると、傍聴人は誘導に従って何事もなかったかのように法廷を後にした。最高裁を出て、タクシーを捕まえて集合場所に向かったが、どの道をタクシーが走ったのか、記憶がない。

 この裁判にかかわって7年。自分が当事者というわけではなく、代理人でもなく、司法書士の仕事として関与したわけでもない。はじめは乗り気ではなかった。ひょっとしたら、最後まで乗り気ではなかったかもしれない。しかし、組織の一員として支援してきた。当事者本人を叱ったり、激励したり、説得したりしながら関わってきた。

 そして、今日の判決。ある意味、大きな課題を背負わされたと言ってもいいであろう。神は、なぜ、これ程までに試練を与えてくれるのだろう。

 浜松までの帰りの新幹線に乗り込み、1時間半の間ボーっと外を見ていた。気がついたら雨が降り出していた。

 ガード下から自転車をこぎ出すと、すぐにシャツが地肌に張り付いた。雨粒が容赦なく顔面をたたき続ける。
 ペダルを強く踏んでスピードを上げた。雨粒がますます強く顔面をたたき続けた。

 意味もなく、口を大きく開けてみた。当然ながら、雨粒が容赦なく口に飛び込んでくる。口を開けたままペダルをもっと強く踏み続けた。叫びたくなったが、それだけはやめた。

 なぜか涙が出てきた。