遺産承継静岡モデル

 平成29年9月23日、一般社団法人日本財産管理協会主催の研修会「遺産承継業務・遺産分割編 ~司法書士が関与する遺産分割における中立型調整業務~」に参加した。

 私は日本財産管理協会の会員ではないが、現状、遺産承継業務についてどのような議論がなされているのかいくつかの関心を持っていたので、私が所属する研究チームからの派遣という形で参加させていただいた。

 私の関心は、第1に、何をもって「遺産承継業務」と言っているのかという点であり、第2に、日本財産管理協会も司法書士の世界でも、「遺産承継業務は司法書士法施行規則31条を根拠とする業務である」と考えているようであるが、なぜそのように言えるのかという点である。

 本日の講義は「司法書士が関与する遺産分割における中立型調整業務」ということであり、講師の実務上の工夫や経験は大いに参考になったが、「中立型調整業務」という概念自体が必ずしも広く認知されているわけではない。ちなみに、「中立型調整業務」については25年ぐらい前に登記の双方代理を考える際に引用した概念であったので、その点はなつかしく思い出した。

 さて、遺産承継業務とは何かということであるが、講師の私見ということであるが、本日の資料によると、「人の死亡によって開始した遺産相続に関し、関係者(相続人)から依頼を受け、通常、遺産分割協議に基づき遺産を相続人へ承継(相続)させる手続き」とのことである。

 では、その内実はどのようなものであろうか。これを考える前提として、遺産承継というのは一般的にどのように行われているのかということを定立しておかなければならないであろう。限定承認、相続人不存在などの特殊なケースを除き、遺産承継は、①「遺産の調査・相続人の確定調査」、②「遺産分割」、③「協議結果にもとづく名義変更や配分」の3段階に分けられるのではないだろうか。この点は、本日の講師の認識も大きくは違わないと感じられた。

 たとえば、①「遺産の調査・相続人の確定調査」とは、遺言公正証書作成の有無の検索、自筆証書遺言の検認の申立て、戸籍謄本・住民票等公的書類の取得、固定資産評価証明書・名寄帳の写し等公的書類の取得、金融機関の預金口座残高証明書の取得、被相続人の信用情報開示請求、債権者に対する取引履歴開示請求・これらの受領、法定相続情報一覧図の保管の申し出、相続財産目録の調製などが考えられよう。

 ②「遺産分割」は、遺産分割協議、遺産分割調停・審判、遺留分に関する協議・調停等が考えられる。

 そして、③「協議結果にもとづく名義変更や配分」については、協議結果の書面化としての遺産分割協議書の作成、遺言書・遺産分割協議・調停等の結果にもとづく不動産・有価証券などの名義変更、預貯金解約、その他財産の換価・換金、配分等が考えられる。

 これら、他人の遺産承継について代理等何らかの方法で業として関与するとなると、それらの行為ひとつひとつについて、それが合法的に可能であるという根拠を明らかにしておく必要がある。

 私見であるが、ざっくりと考えれば、①「遺産の調査・相続人の確定調査」の業務は、必ずしも資格は必要なく、誰が代理してもいいのではないかと思う。

 ②「遺産分割」は、代理できるのは基本的には弁護士であり、調停申立等の裁判所提出書類の作成については司法書士も依頼を受けることは可能である。

 ③「協議結果にもとづく名義変更や配分」については、不動産登記は司法書士、社会保険関係は社会保険労務士、自動車名義変更は行政書士等、資格を必要とするものもあるが、預貯金の解約・配分などは資格は必要なく、だれが代理してもいいのではないかと考える。

 時折、①や③の業務のうち、私が「誰が代理してもいい業務」と定義した内容の業務について、「弁護士と司法書士にしか認められていない業務である」と公言しているホームページ等を見かけることがあるが、それは正しいのだろうか。現に、信託銀行が「遺産整理業務」「遺産承継業務」として同様の手続きを代行している。銀行法という厳しい規律に服する銀行が、「弁護士と司法書士にしか認められていない業務」を行うわけがない。「(弁護士と)司法書士にしか認められていない業務である」という認識は、おそらく、それらの業務の根拠を司法書士法施行規則31条1項1号に求めているからだと思われるが、それは正しいのだろうか。

 では、司法書士法施行規則31条を見てみよう。

 (司法書士法人の業務の範囲)

第三十一条   法第二十九条第一項第一号 の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとする。

一  当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務

 

 まず、委任を受けて、私が「誰が代理してもいい業務」と定義した内容の業務を行う地位に就くということが「管財人、管理人その他これらに類する地位」といえるのか、ということの問題を考えたい。

 依頼を受けてそのような地位に就く以上、管理人には依頼の趣旨を達成するために一定の裁量が許容されるのではないか。だからこそ、一定の規律に服する司法書士がその地位に就くことを認めているのではないかと考えられる。ところが、遺産の調査・相続人の確定に受任者の裁量によって結果が異なることはないし、預金の解約等にしても同様であり、裁量はない。一定の裁量権があるからこそ、「他人の財産の管理若しくは処分を行う業務」をすることになるのである。

 また、そもそも、これらの業務は「他人の財産の管理若しくは処分を行う業務」ではないと思われる。遺産等の調査業務はもちろん、預貯金の解約がなぜ「管理」や「処分」になるのか私にはわからない。「遺産の換価処分をすることなどが「処分」の典型である」という声も聞こえてきそうだが、処分するのは相続人であり、依頼を受けた司法書士が売却先や価格を決定したりすることはない。司法書士が旧知の不動産業者を紹介して売却を進めるようなこともあるだろうが、やはり、司法書士が売却先や価格を決定したりすることはなく、メッセンジャーの役割を担っているにすぎない。

 いずれにしても、遺産承継業務全体を司法書士法施行規則31条の規定する業務と位置付けると司法書士が遺産分割に代理的関与をすることが正当化されるという理屈になるのかもしれないが、私は、遺産承継業務は司法書士法施行規則31条の規定する業務ではなく、司法書士という立場や権限で遺産分割に代理的に関与することはできないと考える。

 本日の講師は遺産承継業務を規則31条業務であるという前提でお話しされていたが、それでも遺産分割に代理的関与をすることはできないと考えているように感じられた。そこで、調停委員などの豊富な経験から中立型調整業務というカテゴリーを定立して遺産分割に関与することを提唱されていたが、相当慎重な言い回しをしていたことが印象的だった。

 今、私が所属する研究チームでは、遺産承継業務は規則31条の業務ではないという理論構成をして「静岡モデル」の遺産承継業務を提唱しており、何カ所かに講師を派遣しているが、いずれきちんとした形で公にしたいと考えている。

もっともっと議論することが必要だと感じた。

投稿者プロフィール

古橋 清二
古橋 清二
昭和33年10月生  てんびん座 血液型A 浜松西部中、浜松西高、中央大学出身(途中、上池自動車学校卒業)

昭和56年~平成2年 浜松市内の電子機器メーカー浜松ホトニクス(東京一部上場)で株主総会実務、契約実務に携わる
平成2年 古橋清二司法書士事務所開設
平成17年 司法書士法人中央合同事務所設立
最近、農業にはまってい る (本人は「農業」と言っているが、一般的には「家庭菜園」と呼ばれている)。 耕運機まで所有するなど、道具は一人前だが野菜のできはイマイチ。 本人は、異常気象だとか、土が悪いとか、品種が悪いなどと言って、決して自分の腕が悪いことを認めようとしない。